噛み合わせの角度

今、市場で最も活発に議論されているテーマのひとつが、噛み合わせの角度です。噛み合わせの角度がライディングパフォーマンスにどのような影響を与えるのでしょうか、そして「歯数が多ければ多いほど良い」という"常識"は本当に正しいのでしょうか?

噛み合わせの角度

噛み合わせの角度とは、フリーホイールシステムの歯がハブに噛み合い、ハブを加速させるまでのフリーハブボディの最大回転角度です。この角度は、360ºをフリーホイールシステムの噛み合い箇所の数で割ることで計算されます。

 

 

36点での噛み合いの場合 = 10º

ライディングへの影響

噛み合わせの角度が何かはわかりましたが、次の問題は、この角度がいつ、どのようにライディングに影響を与えるかです。

バックラッシュ

バックラッシュとは、フリーホイール機構が噛み合い、クランクの力をホイールの加速に変換させるまでに、クランクが回転できる最大空転距離を意味します。バックラッシュは、クランク長、ギア比、噛み合わせの角度の3つの要因による影響を受けます。

クランク長と噛み合わせの角度は、クランクの空転距離と比例します。一方、ギア比はバックラッシュに反比例の影響をもたらします。

ギア比が小さいほど、クランクの最大空転距離は長くなります。

では、小さなバックラッシュが重要になるのはいつでしょうか? それは、上り坂や、障害物を乗り越えるためにすぐに加速することが重要な状況です。

\(BACKLASH = 2\cdot \pi \cdot  cranklength \cdot {engagement\ angle \over 360} \cdot {sprocket \over chainring}\)


 

ペダルキックバック

ペダルキックバックとは、フルサスペンションバイクにのみ発生する現象で、サスペンションが圧縮されたときにチェーンにかかる張力によって引き起こされる、「クランクが進行方向と逆方向に回転する」現象です。さらに、このチェーンの張力はサスペンションの自由な動きを妨げます。では、ペダル キックバックと噛み合わせの角度はどう関係するのでしょうか?

このペダルキックバックという現象をより詳しく説明するため、まず2つの仮定を立てます。初めに、"リアホイールは固定されており、時計回りにも反時計回りにも回転しない"、次に、"バイクが静止状態にある"と仮定します。つまり、バイクのスピードは考慮しません。

では、リアサスペンションが圧縮されるとどうなるのでしょうか?

  1. バイクのリアサスペンションが圧縮します。
  2. リアホイールがピボットポイントを中心に動きます。
  3. ボトムブラケットとリアホイール アクスルとの間の距離が変わります。(もしリアスイングアームのピボットポイントがボトムブラケット真上にある場合は変わりません。)
  4. によりチェーンの長さが変化し、クランクが進行方向と逆方向に回転します。

サスペンションへの影響は?

クランクの回転が妨げられると、チェーンの張力がボトムブラケットとリアアクスルとの間の距離を一定に保ちます。これによりスイングアームの動きが妨げられ、サスペンションは衝撃を吸収できなくなります。

ペダルキックバック
噛み合わせの角度

ペダルキックバックは噛み合う点とどのように関係するのでしょうか?ペダルキックバックに噛み合わせの角度が及ぼす影響を理解するには、瞬時に噛み合った場合と噛み合わない場合の、2つの極端な例を確認してみるとわかりやすいでしょう。

瞬時に噛み合わった場合  
∞ POE

瞬時の噛み合わせは、噛み合い点(POE)の数が無限にあるフリーホイール システムで実現可能です。フリーハブボディーがどのような状態であろうと、フリーホイールボディーはハブのハウジングに噛み合います。フリーハブボディーは反時計回りには回転できますが、時計回りに回転することはできません。

サスペンションが圧縮されると、ボトムブラケットとリアホイールアクスルとの間の距離が(それぞれのバイクの設計等に応じて)拡がります。

チェーンの長さは、ディレイラーまたはチェーンテンショナーによって補正されますが、フリーハブボディーは反時計回りにしか動くことができないため、チェーンには進行方向と逆方向の張力がかかり、クランクも進行方向と逆方向に動きます。

クランクが固定されている場合、ボトムブラケットとリアホイールアクスルの間の距離は変わらないため、サスペンションは自由に動けなくなります。

噛み合わない場合
0 POE

もう一方の極端な例が、噛み合い点(POE)のないフリーホイールシステムで、これはフリーハブボディーが進行方向にも逆方向にも、自由に回転できることを意味します。

この条件下では、フリーホイールボディーは時計回り(進行方向)にも動きます。そのためクランクがライダーの体重で固定されたとしても、チェーンはカセットスプロケット上を時計回りに動くので、リアエンドは自由に動くことができます。

ペダルキックバックの事例

32/14のギア比で、50mmの衝撃を受けた際にバイクのペダルキックバックが3°であると仮定すると、フリーホイールにはどのような影響があるでしょうか?

噛み合わせの角度がペダルキックバックに及ぼす影響を理解するには、フリーホイールがどの程度回転できるかを知る必要があります。これを計算するには、ペダルキックバックにギア比を乗算します。

クランクのペダルキックバックが3°の場合、フリーホイールボディはおよそ6.8°回転することを意味します。

\(6.8° = 3°\cdot {32\over 14}\)

POE(噛み合い点)がないシステムでは、フリーホイールボディーはどの位置でも適切な角度だけ自由に回転でき、ペダルキックバックが発生することはありません。POEが無限であるか、またはPOEが大量にあるシステムでは、高い確率でペダルキックバックが発生します。

この例では、噛み合わせの角度が6.8°より小さい場合、ペダルキックバックが発生する可能性が高くなることを意味します。

噛み合わせの角度が大きいほど、ペダルキックバックが発生する確率は低くなります。

噛み合い点が増える=ペダルキックバックが発生する確率が高い
*バイク自体の運動特性や走行速度によって異なります。

1:噛み合わせなし、2:噛み合わせの角度10º、3:噛み合わせの角度6.8º未満

その他の注意事項

走行中、ハブは一定の速度で回転します。加速するためにはフリーホイールボディーがハブに噛み合う必要があります。そして、噛み合いはフリーホイールボディーがハブよりも速く回転したときのみ発生します。ハブの回転速度がフリーホイールボディーよりも速いときは、フリーホイールボディーはハブに噛み合うことができないため、ホイールは加速しません。

また、ペダルキックバックもしくはサスペンションへの悪影響に関しては、ハブの回転速度がフリーハブボディーよりも速ければ発生しないということになります。しかし、ハブの回転速度がそこまでの速度に達することは容易ではありません。なぜなら、速く走れば走るほど圧縮は強まる可能性が高くなり、チェーンがフリーホイールボディーの速度に早く到達するためです。もしこの速度に達するのが簡単なら、ペダルキックバックをなくすためにスプロケットを外して空転させる実験をするプロライダーは存在しないでしょう。

しかし、バイク自体の運動特性によってはペダルキックバックがないものもありますのでご注意ください。

結論

最適なフリーホイールシステムの開発において、信頼性、重量、噛み合い点の3つの要素を考慮しなければなりません。しかし同時に、これら3つの要素はそれぞれトレードオフの関係にあることを念頭に置いておく必要があります。

より多くの噛み合い点を持つシステムを構築するためには、ハブの構造を大きくする必要がありますが、それは結果として大幅な重量増につながります。

しかし、軽量化のために噛み合い点を最小化することは最適解とは言えません。目指すべきはシステムの総合的なパフォーマンスの最大化です。DT Swissでは、信頼性、重量、噛み合い点という3つの観点から、総合的に優れたパフォーマンスを発揮する最適解は、36の噛み合い点を持つシステムであると考えています。

コンバージョンキット

トライアルライダーなど、噛み合わせの角度が小さいことを重要視するライダーなどのために、噛み合わせの角度を6.7°に抑えた54T コンバージョンキットもご用意しています。

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