ライディングへの影響
かみ合い角度が何かはわかりましたが、次の問題は、この角度がいつ、どのようにライディングに影響を与えるかです。
今業界で最も活発に議論されているテーマが、かみ合い角度です。かみ合い角度とは何でしょうか?この角度がライディング性能にどのような影響を与えるのでしょうか?また、「多ければ多いほど良い」という昔からの知恵は常に有効なのでしょうか?
かみ合い角度とは、フリーホイールシステムの歯がハブにかみ合い、ハブを加速させるまでのフリーハブボディの最大回転角度です。この角度は、360ºをフリーホイールシステムのかみ合い箇所の数で割ることで計算されます。
かみ合い角度が何かはわかりましたが、次の問題は、この角度がいつ、どのようにライディングに影響を与えるかです。
バックラッシュとは、フリーホイール機構がかみ合い、クランクの力をホイールの加速に変換させるまでに、クランクが回転できる最大アイドル距離を意味します。バックラッシュは、クランク長さ、ギア比、かみ合い角度の3つの要因による影響を受けます。 クランク長さとかみ合い角度は、クランクのアイドル距離と比例します。一方、ギア比はバックラッシュに反比例の影響をもたらします。
ギア比が小さいほど、クランクの最大アイドル距離は長くなります。 では、小さいバックラッシュが重要になるのはいつでしょうか? それは、上り坂や、障害物を乗り越えるためにすぐに加速することが重要な状況です。
\(BACKLASH = 2\cdot \pi \cdot cranklength \cdot {engagement\ angle \over 360} \cdot {sprocket \over chainring}\)
ペダルキックバックとは、フルサスペンションバイクでのみみられる現象です。ペダルキックバックはサスペンションが縮む間にチェーンにかかる張力によって引き起こされ、クランクが逆方向に動きます。さらに、このチェーンの張力によりサスペンションが自由に動けなくなります。では、ペダルキックバックはかみ合い角度にどう関係するのでしょうか?
この作用をより詳しく説明するため、まず2つ仮定を行います。最初に、リアホイールは固定されていて、時計回りにも反時計回りにも回転できないと仮定します。次に、バイクが静止状態にあると仮定します。つまり、バイクの速度は考慮しません。
では、リアサスペンションが圧縮されるとどのような現象が起こるのでしょうか?
サスペンションにはどのような影響がありますか?
クランクが回転できない場合、チェーンの張力がボトムブラケットとリア軸の間の距離を一定に保ちます。それによってスイングアームの自由な動きが妨げられ、サスペンションは衝撃を吸収できなくなります。
ペダルキックバックはかみ合い点にどのように関係するのでしょうか?ペダルキックバックにかみ合い角度が及ぼす影響を理解するには、即時のかみ合いとかみ合いなしの2つの極端な事例をまず確認するとわかりやすいでしょう。
即時のかみ合いは、かみ合い点(POE)の数が無限にあるフリーホイールシステムで実現されます。フリーハブボディがどのような状態であろうと、フリーホイールボディがハブのハウジングにかみ合います。フリーハブボディは反時計回りに回転できますが、時計回りには動きません。
サスペンションが圧縮されると、ボトムブラケットとリア軸の間の距離が広がります(それぞれのバイクのキネマティックに応じて)。
それにより、チェーン長さの変化が変速機またはチェーンテンショナーによって補償されます。フリーハブボディは反時計回りにしか動かないため、チェーンには逆方向の張力がかかり、クランクの後方移動も引き起こします。
クランクが固定されている場合、ボトムブラケットとリア軸の間の距離が変化することはないため、サスペンションの自由な動作が妨げられます。
もう1つの極端な事例が、POEのないフリーホイールシステムです。これは、フリーハブボディがどちらの方向にも自由に回転できることを意味します。
これを開始位置として、フリーホイールボディは時計回りにも移動できます。クランクがライダーの体重により固定される場合でも、チェーンがカセットの上を時計回りに移動できるため、リアエンドは自由に動くことができます。
32/14のギア比で、50 mmの衝撃を受けた際にバイクのペダルキックバックが3°であると仮定しましょう。フリーホイールにはどのような影響があるでしょうか?
かみ合い角度がペダルキックバックに及ぼす影響を理解するには、フリーホイールがどの程度回転できるかを知る必要があります。これを計算するには、ペダルキックバックにギア比を乗算します。
クランクのペダルキックバックが3°の場合、フリーホイールボディは6.8°回転することを意味します。
\(6.8° = 3°\cdot {32\over 14}\)
POE(かみ合い点)がないシステムでは、フリーホイールボディはあらゆる位置で適切な角度で自由に回転でき、ペダルキックバックは発生しません。無限のPOEがあるシステム、または大量のPOEがあるシステムでは、ペダルキックバックが発生する確率が高くなります。
この例では、かみ合い角度が6.8°未満の場合、ペダルキックバックが発生する確率が高くなることを意味します。
かみ合い角度が大きくなるほど、ペダルキックバックが発生する確率が低くなります。
かみ合い点が増える = ペダルキックバックの確率が高い*
*バイクのキネマティックと走行速度によって異なります。
走行時には、ハブは一定の速度で回転します。加速するにはフリーホイールボディがハブにかみ合う必要があります。これは、カセットがハブよりも速く回転した場合のみ起こります。ハブの角速度がカセットの角速度よりも速い場合、フリーホイールボディはかみ合うことができず、ホイールは加速しません。
ペダルキックバックに関しては、ハブの角速度がチェーンの張力によって生まれたフリーハブボディの速度よりも早い場合、ペダルキックバック、またはサスペンションへの悪影響は発生しないことを意味します。しかし、この特定の速度に達することは容易ではありません。なぜなら、速く走行するほど、圧縮が強まる可能性が高くなり、チェーンがフリーホイールボディの速度に早く到達するためです。もしこの速度が簡単に到達可能であったら、ペダルキックバックを排除するためにスプロケットを取り外してアイドルを確保する実験を行うプロのライダーは存在しないでしょう。
ただし、バイクのキネマティックによってはペダルキックバックがないものもありますのでご注意ください。
最適なフリーホイールシステムを開発するにあたり、考慮すべき3つの要素があります。 それは、信頼性、重量、かみ合い点です。ただし、これら3つの要素はそれぞれトレードオフの関係にあることを念頭に置く必要があります。
システムのかみ合い点を増やすにはハブの構造を拡大する必要がありますが、それは最終的に重量の大幅な増加につながります。
かみ合い角度を減らすのではなく、システムの総合的性能の最大化を目指すべきです。36箇所のかみ合い点のあるシステムは、信頼性、重量、かみ合い点の観点から、この3つの要素において最善の最適化を表していると考えられます。
トライアル競技に参戦するなど、一部のライダーにとってはかみ合い角度が小さいことが非常に重要となる場合があります。そのため、かみ合い角度を6.7°に減らすための 54tコンバージョンキットをご用意しています。